歌志内市|再自然化に向き合いながら模索する都市存続の道

歌志内市の地域維持に関する統計指標

全国で最も人口が少ない市である歌志内市。炭鉱閉山がもたらした深刻な過疎と高齢化が加速しており、財政力指数が0.11、ピーク時の人口4.2万人から約17分の1に縮小、高齢化率が54.87%と極めて地域維持が困難な数字が並んでいます。

項目 数値・詳細 / 出典
自治体名 北海道歌志内市
財政力指数
0.11
総務省「全市町村の主要財政指標(令和6年度)」
人口推移
ピーク時:42,080人(1948年)
→ 最新:2,473人(2025年)
歌志内市「令和7年歌志内市月別世帯数・人口(令和7年12月31日現在)」
高齢化率
65歳以上:54.87%
歌志内市「令和7年歌志内市月別世帯数・人口(令和7年12月31日現在)」
持続可能性区分
消滅可能性自治体
2050年 若年女性減少率:86.7%
人口戦略会議「令和6年地方自治体『持続可能性』分析レポート」

ペンケウタシュナイ川沿いの黒ダイヤの轍|地形・歴史

北海道歌志内市は夕張山地の麓、ペンケウタシュナイ川が刻んだ険しいV字谷に沿って街が形成されています。この地形は、居住地を川沿いのわずかな平坦面と急斜面に限定される制約をもたらしました。1948年には石炭産業の隆盛で人口4万2千人を数える過密都市でしたが、険しい地勢は街の拡張を阻み、炭鉱住宅が山肌に張り付く独特の定住形態を強いてきたのです。

1960年代以降の炭鉱閉山で産業を失ってしまうと、生活利便性の低い傾斜地から優先的に人口が流出していきました。高密度化された都市構造は、平坦な土地を要する近代的な産業立地には不適合であり、鉱業の消失とともに都市機能が収縮してしまうのは必然だったといえます。現在、市内のいたる所で再自然化が進む光景は、かつての過密状態から本来の姿へと戻る過程にあるのかもしれません。

豪雪の山嶺と歴史が醸し出す産物|特産物・名所

歌志内市の産品や名所は、炭鉱の熱気と凍てつく山嶺が育んだ「土地の記憶」です。不自由な地形を逆手に取り、不便ささえもこの街にしかない「強み」へと変えています。

🍯 ブランド産品
かもい高原のはちみつ
標高の高い原生林で採取される、混じりけなしの純粋な蜜。冷涼な空気と激しい寒暖差が、花の香りを一滴に凝縮。舌の上で広がる透明感のある甘みは、まさに山の宝石です。

🍲 郷土・工芸品
なんこのみそ煮
馬の腸を秘伝の味噌で煮込んだ、炭鉱マンが愛したスタミナ食。驚くほど柔らかな食感と深いコクは、厳しい山間の winter に心まで温める、歴史が磨いた「元気の源」です。

🍎 主要産品
歌志内産リンゴ
鋭い斜面を抜ける冷風が、果実の甘みを最大限に引き出します。雪国ならではの引き締まった身と、溢れ出す芳醇な蜜。過酷な自然に揉まれたからこそ到達した究極の味です。

♨️ 自然・景勝
うたしないチロルの湯
スイスの山岳地帯を思わせる景観の中、良質な重曹泉が肌を優しく包みます。雪深い谷あいに湧く「美肌の湯」は、日常の喧騒を忘れ、深い安らぎへ誘う極上の癒やし空間です。

🎭 地域遺構
悲別ロマン座
かつての活気を今に伝える、木造の映画館遺構。閉山後の静寂の中に佇む姿は、訪れる者の想像力を刺激します。色褪せない「昭和の物語」が、静かに時間を止めて待っています。

🏛️ 地域遺構
郷土館ゆめつむぎ
地下千メートル、熱気に満ちた炭鉱生活を五感で追体験できる資料館。不屈の精神で挑んだ人々の証言や道具が、この街が積み上げてきた「夢」の大きさを静かに語りかけます。

歌志内市の主要地区・集落の人口と世帯数

地区・集落名 人口 世帯数
文珠 1,270人 547世帯
本町 603人 305世帯
神威 331人 142世帯
中村 252人 140世帯
歌神 231人 126世帯
東光 169人 95世帯
上歌 133人 69世帯

出典:総務省統計局「令和2年国勢調査 小地域集計」より作成

最小都市が模索する都市持続への道|行政・移住

市の行政運営は、低い財政力指数と人口減少という現実に対し、インフラ維持コストを抑える「選択と集中」を軸としています。具体的には、全小中学校を統合した義務教育学校「歌志内学園」の開校や市営住宅の再編などを通じ、居住エリアへの都市機能の集約を推進中です。

一方で、人口規模を維持するため、転入者への最大500万円の住宅取得奨励金や18歳までの医療費無料化など、手厚い定住支援を講じています。2025年には休止中だった「かもい岳温泉」の営業を再開させるなど、民間活力を利用した地域資源の維持も模索されています。

高齢化率が54.87%に達するなか、医療体制の確保と若年層の流入をいかに両立させるかが、最小自治体の持続可能性を左右する喫緊の課題といえるでしょう。

都市としての矜持を持ち続ける強い意志|総括

歌志内市の歩みは、かつて山肌を埋め尽くした過密な都市機能から、余剰が削ぎ落とされ、峻険な地勢と共生する街の原形が露わになっていく過程と言えます。4万人超の喧騒が去った谷あいの風景は、単なる衰退の記録ではなく、都市という仕組みが自然の静寂と折り合いをつけ、再び馴染んでいく姿のように思われます。

日本一小さな「市」の看板を掲げ続けることは、たとえ人口が数千人になろうとも、「都市としての矜持と責任を放棄しない」という強い意志表明に他なりません。炭鉱が残したインフラを背負いながら、過酷な自然と共生するこの街の姿は、肥大化しすぎた現代都市が将来必ず向き合うべき「真の豊かさ」の輪郭を鮮明に描き出しています。

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